◎生産力の拡大がすべての環境を改善させた 武田: そうです。一九九〇(平成二)年に、産業活動の向上によって、すべての環境が改善された。 そもそも環境が悪くなったのは、人間活動、主に工業的な生活レベルなどの速度が、天然の処理量を超えたからです。天然の処理量は、現在の先進国の工業量より全然低い。ですから、環境を改善しようということは、自然の活動などでやることはできない。つまり、速度が合わない。 たとえば、自然から排出される、火山や鉱物などからの二酸化硫黄の排出量は年に約一兆グラム(三百万トン)と推定されています。この三兆グラムであれば自然が処理できます。 それに対して、人間活動、工業活動によって硫黄が出る量が、自然の量を超えたのが一九四五(昭和二十)年から一九五〇(昭和二十五)年のことで、第二次世界大戦における生産力拡大が決定的に効いたのです。そして、いまはそのだいたい四倍から五倍になっている。 すると、それを解消するには自然とか、少々節約するぐらいでは到底できない。その五倍のスピードに合わせて処理設備を置く必要があるわけですね。それをやってきたのは、日本では主に一九八〇年代です。 水俣病や四日市ぜんそくなどに対して、非常にすばやく日本の工業界なり科学技術なり、効率的なシステムなどが全部寄与して、そしてどんどんたたきつぶしてきた。そこで、一九九〇年には、ほとんどの問題は解決した。 その一つの現われが公害病患者の新規認定患者がいなくなったということです。 それから、それまでは自治体に対する苦情の一番は水道が臭いということでした。私の記憶ではちょっとはっきりしませんが、年間に相当な数の苦情があったのが、それが今ではほとんどなくなった。 日下: つまり、水道水がおいしく飲めるようになったと。 武田: そういった改善というのが、私に言わせてもらえば、すべて生産力の拡大によってなされた。 日下: 生産力拡大によって利益が出て、それで環境設備に投資できるようになったと。 武田: 工業界の方で利益が出たからこそ、できたわけです。つまり、金持ちであるということが環境をよくすることの基本的ポイントだったと言っているわけです。あとは「イノベーシ ョン(技術革新)」です。 その二つであって、けっして節約とか、そういうものとはまったく違う。 日下: それから規制とかね 。 武田: 規制とかとは違う。日本の環境問題は、それを一八〇度間違って解釈したまま現在になったというのが、私の論点なんですね。 日下: いや、素晴らしい。 武田: ありがとうございます。日下さんから厳しく批判されるかもしれませんが。 『作られた環境問題』NHKの環境報道に騙されるな! 武田邦彦・日下公人 (WAC 文庫 平成21年発行)より R061129 P22