◎九〇年代に、なぜダイオキシンの有害性が報道されたのか 日下: ということは、九〇年代になって出てきた論文には、ダイオキシンの有害性についてはどういうふうに? 武田: 私はダイオキシンについては専門家ではありませんが、当時、科学的なものを読んで調べていました。セベソの健康診断結果なども、英語でインターネットに出ていたので読んでいました。それらの論文を読むと、まず患者さんがでない。それで私は「おかしいな。なぜ患者さんがでないのかな」と不思議に思っていたのです。毒性があるのなら、患者が出ないはずはない。 当時は、科学者であっても、専門でない人間はみんな、「ダイオキシンに、果たして毒性があるのかないのか、はっきりとわからない」という状態だったと思います。 日下: それなら、なぜ九〇年代にダイオキシンの有害性が大きく報道されるようになったか、それが問題になりますね。 武田: 当時、ダイオキシンの本を書いた専門家がいるんです。その本を、最近になってあるきっかけで、読み直してみたのです。私の以前読んだ記憶では、その本{宮田秀明先生の『ダイオキシン』(岩波新書)です。当時、「ダイオキシンのバイブル」と言われていました。それを二〇〇七年に読み返してみました』には「ダイオキシンは毒物だ」と書いてあると思っていたんですね。 しかし、今回きちんと読んでみたら、第六章のタイトルに「人間に対するダイオキシンの影響」とある。しかし、そこには人間への影響のデータが―つもない。つまり、章タイトルはそうなっているけれど、著者は「人間にとって毒だ」と断言うしているわけではないんです。 私自身、科学的訓練を受けていて、ものを厳密に見る癖がついているにもかかわらず、社会の風潮に引きずられて、「人間に対する影響は書かれていない」という記憶を持っていないのです。先入観があって、ダイオキシンの毒性が書いてあると思い込んでいたので、人間についての悪影響も書いてあると何となく頭から思い込んでいたんですね。 考えてみたら、一九九〇年頃に書かれた本なので、まだ、そんなデータがないに決まっているんです。 日下: つまり、タイトルだけあったんですね。 武田: そう。タイトルをつけたのは編集者でしょうけれど、しかし、その著者である宮田先生も、やっぱり毒だと思っておられたのでしょう。それが行間に溢れていて、私たちもダイオキシンが毒だと、何となく思い込んでしまったんですね。 そして、九〇年代半ば以降、ダイオキシンの有害性の報道がどんどん出て来た。ダイオキシンの有害性については、一九九七年頃がもっとも盛んに報道されていました。「あそこの焼却炉の近くがダイオキシンに汚染されていた」といった報道です。その最たるものが先ほどお話ししたテレビ朝日の所沢の野菜からダイオキシンが出たという報道です。 ダイオキシンの患者さんが一人もいないというのに、ダイオキシンの患者さんの映像が撮れるはずがないんです。だから必ず違う映像を映す。 こういうことを、私は「創造型環境破壊」における「必然的に起こる誤報」と言っているんです。「創造型環境破壊」とは現実に存在しないものです。だから、それを映像化しようとすると必ず誤報になる。 『作られた環境問題』NHKの環境報道に騙されるな! 武田邦彦・日下公人 (WAC 文庫 平成21年発行)より R061208 P58